ORIGINAL RESEARCH / REAL VOICE
言葉が出てくるまでの"間"を観察・記録した、対面調査レポート
SNSでの下調べは、前提行動
行き先を事前にSNSで調べる人は8割に上り、来街前のリサーチは一部の熱心な層だけでなく、標準的な行動として定着
知っていた場所は、実際もほぼ同じだった
事前にSNSで見て知っていた場所を訪れた人のうち82%が「ほぼ同じだった」と回答。「かなり違った」はゼロ
正確な認知と、真っ先の想起は別の話
「新宿と言われて」に即座に答えられた人は3割弱。正確な認知と、迷いのない想起は、別の力学の存在が示唆
今回の調査では、新宿での街頭インタビュー50件の定量結果と、回答が生まれる瞬間の様子まで記録したデータから、浮かび上がった生活者の意識をひもときます。
回答者プロフィール
n=50
性別
年代
来街頻度
来街目的は買い物38%、飲食18%、友人・知人と会う22%の順で多く、立ち寄り店舗数は2〜3店が44%と最多でした。
新宿への来街者のうち、新しい行き先や気になるお店を事前にSNSで調べる人は8割に上りました(「いつもよく調べる」50%+「たまに調べる」30%)。本日訪れた、またはこれから訪れる予定の場所の中にも、事前にSNSで見て知っていたものがあったと回答した人が4割存在します。
SNSでの事前リサーチ習慣・行き先の事前認知
n=50
SNSでの事前リサーチ習慣
本日の行き先を事前にSNSで知っていたか
SNSでの下調べは、もはや一部の熱心な層だけの行動ではなく、来街行動の前提として定着していると言えます。
では、SNSで見て知っていた場所に実際に行ってみて、印象は変わったのでしょうか。この設問に回答した17名(まだ訪れていない人を除く)のうち、82%が「ほぼ同じだった」と回答し、「かなり違った」と回答した人はいませんでした。
SNSで知っていた場所と、実際に行ってみた印象の一致度
n=17(「まだ行っていない」3名を除く)
「SNSで見たイメージと実物は違う」という語られ方が目に付くことは往々にしてありますが、今回の調査では、SNSは来街前に精度の高いイメージを作る装置として機能していた様子が見て取れます。SNSでの情報発信は、来訪後の失望を招くリスクを懸念するより、正確な期待形成を担う前向きな機能として活かせると捉えるべきかもしれません。
ここまでは、行き先の情報が"正確に伝わっていたか"についての結果でした。ここから視点を変え、新宿という街全体について、自由な想起での回答を問うと、そもそも何が、どれだけ迷いなく思い浮かぶのかを見ていきます。
「新宿と言われて何を思い浮かべるか」という純粋想起による質問は、Web調査でも実施可能ですが、本調査では対面調査ならではの情報として、「回答が生まれるまでの反応速度」という、発話に至るまでのプロセスを観察して記録しました。
有効回答者42名の「回答内容」と「反応の様子」の両方を記録することで、3つのインサイトがみえてきました。
「新宿と言われて何を思い浮かべますか」への反応速度
n=42
具体的な施設名を挙げた回答は15件ありましたが、即答だったのはそのうち5件にとどまり、残り10件は「うーん、なんだろう」といった言い淀みを経てから出てきたものでした。同じ「施設名の想起」でも、この2つには質的な違いがあるようです。即答は、考える前に自然と口をついて出る、真にトップオブマインドな想起です。一方、考えてから出てくる施設名は、記憶の中から探し出された、いわば検索的な想起だと言えます。この違いは反応の様子を観察して記録するからこそ、見えてきます。
具体的施設名を挙げた15件の反応速度内訳
n=15
実際、即答で挙がった施設名には、次のようなものがありました。
「伊勢丹。」(40代男性・月1回程度来街)
「駅がでかいなと思います。」(20代男性・月1回程度来街)
「都庁?」(40代男性・年数回程度来街)
「バスタ?よく使うので。」(50代女性・月1回程度来街)
いずれも、考える素振りを見せることなく出てきた固有名詞です。
回答内容を「具体的施設」「感覚的印象」「機能的概念」等に分類し、反応速度と掛け合わせたところ、即答の比率はどの内容ジャンルでもおおむね3割前後とほぼ一定で、内容だけからは反応速度を予測できないことが分かりました。つまり反応速度は、回答内容そのものとは別の情報を運んでいます。感覚的印象(「人が多い」「ガヤガヤしている」等)に分類された回答についても、即答されたものと、考えてから出てきたものの両方が含まれていました。前者は言い淀みや留保表現を伴わない断定的な言い切りになる傾向があり、後者は「という印象」「〜かな」といった留保表現を伴いやすくなっています。
内容ジャンル別の反応速度(WHAT×HOW)
n=39(感覚的印象15・具体的施設15・機能的概念9。エリア類型n=1は集計対象から除外)
たとえば、即答された回答には次のようなものがありました。
「人が多い。ごちゃごちゃしてる。」(50代女性・ほぼ毎日来街)
対して、時間をかけてから出てきた回答は、こうした留保のニュアンスを帯びます。
「流行ってるご飯屋さんとかが……多いなという印象。」(10代女性)
ネガティブな感覚語(人混み・疲れる・息苦しい等)を伴う回答の中には、笑いを同時に伴うものが複数見られました。発言の内容だけを文字に起こせば否定的な評価に見えますが、そこに笑いが添えられていることは、単純な不満とは異なる、複合的な態度を示していると考えられます。「便利だが疲れる」といった、一つの評価軸には収まらない感情の動きです。
実際の回答例は次の通りです。
「人が多くて、すごく息苦しいなと感じます(笑)。」(20代男性・年数回程度来街)
「え、人混み(笑)。」(20代女性・週1回程度来街)
「人、人しかないです(笑)。人混み……?人多すぎ(笑)。」(20代女性・年数回程度来街)
①②③に共通しているのは、いずれも「何を言ったか」だけを見ていては分からず、「どう言ったか」を掛け合わせて初めて見える情報だという点です。何が思い浮かぶかという内容は、Web上の自由記述でも取得可能です。しかし、それがどれだけ迷いなく、どんな感情の色を伴って出てきたかは、対面でその場に居合わせて初めて記録できる情報です。
新宿への来街者の多くが、SNSで見た情報どおりの現実に出会っていました。しかし同じ来街者に、新宿という街全体について尋ねると、即座に答えられた人は3割程度にとどまり、多くは考えてから、あるいは笑いを交えながら言葉を選んでいました。
この2つを並べると浮かび上がってくるのは、「正確に知っていること」と「真っ先に思い出すこと」は、どうやら別の軸のようだ、ということです。SNSは、行く前の期待を裏切らない、精度の高い情報源として機能していましたが、それは"迷いなく思い出される"という、より強い記憶の定着までを保証するものではなさそうです。
これは新宿に限った話ではないと考えられます。顧客が自社について正確な情報を持っていることと、顧客が自社を真っ先に思い出すことは、別々の課題です。前者が満たされているからといって、後者も自動的に満たされるとは限りません。この論点が今回の調査では示唆されたといえます。
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